2015年9月1日火曜日

腸内細菌約60種のグリセロールストックを96 well plate上に作製しました。

 2015年8月26日から28日にかけて腸内細菌約60種の培養液の入った96 well plateを20枚作製しました。
 ヒトの腸内には一人当たり100種類以上の腸内細菌が存在しており、さまざまな代謝産物を通じて私たちの健康に影響を与えています(Nature 514: 181-18(2014)、Cell 115: 1451-1463(2013))。この影響を調べるためには、主要な腸内細菌について研究する必要があります。ヒトの腸内細菌のうち最優勢の上位56種についてはすでに学術論文で報告があります(Nature, 464:59-65 (2010))。腸内細菌共生機構学研究室ではこれらの腸内細菌について入手可能なものすべてをコレクションしています。腸内細菌の培地の多くはとても複雑な作製法をもつものが多く、培地を作るだけで一日仕事になることも多いです。そこで、作製が容易なGAM培地(Gifu anaerobic medium)に生育する約40種をこれまでに確認しました。
 多くの研究室では、-80℃で凍らせて細菌を保存しています。しかし、菌の培養液をそのまま凍らせると菌が死んでしまいます。そこで保護剤としてグリセロールを培養液に混ぜた上で-80℃の冷凍庫に入れ、保存します。(この方法は微生物の保存法としてよく用いられます。)この凍らせた培養液のことをグリセロールストックと呼びます。これまでの実験では、グリセロールストックから試験管に一つ一つ植菌し、実験を始めていましたが、数10種類の菌をグリセロールストックから植菌するのは1時間以上かかる上に、グリセロールストックの一部が凍結融解されるため、劣化する恐れがありました。そこで、96 well plate(写真1)の中でグリセロールストックを作って使い捨てで使えばよいと考えました。

写真1:96 well plate。96個の穴が開いています。



そうすれば、植菌スタンプ(写真2)

写真2:植菌スタンプ。96本の針がついています。


を用いて、一度にたくさんの腸内細菌を植菌することができます(写真3)。

写真3:培養液のついた針を、96 deep-well plateに入った液体培地に触れさせると
最大96種の菌を約3秒で植菌できます


 また、96 well platを使用すれば生育の度合いを知るための濁度の測定も一度にできるため実験操作がより簡便になります(写真4)。

写真4:最大96 well 分の濁度を約10秒で測定できます


 今回グリセロールストックをした腸内細菌は、GAM培地に生育する主要な腸内細菌と、乳酸菌、ビフィズス菌などです。これら約60種類の菌の培養液にグリセロールを加え、これを20枚の96 well plateに分注しました。植菌や分注などコンタミネーションの恐れがある操作はすべて栗原先生が嫌気チャンバー内で行いました(写真5)。
写真5: 96 deep-well plate内の培養液をマルチチャンネルピペットマンで
96 well plateに分注していく栗原先生


 腸内細菌の種類と作製したプレートの枚数が多かったため、これらの実験操作はかなりの時間がかかりました。(途中約5分の休憩を3,4回挟みましたが、14時から開始した作業が終わったのは18時でした。)さらに前日まで嫌気チャンバー内の湿度はいつもより高めに設定しており、作業当日の嫌気チャンバー内の湿度が高かったため約4時間嫌気チャンバー内に手を入れていた栗原先生は今までにないぐらい汗だくでした。(この時嫌気チャンバー内の湿度は約70%を超えていました)
(写真6)

写真6:完成した20枚の96 well plate。嫌気チャンバー内の床を覆い尽くすほどの枚数です。



 また、このような長時間、嫌気チャンバーに手を入れて実験をしている人を隣で見たのは初めてでした。これからこれを使ってたくさんの実験を行う予定です!

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